【コラム】「台詞の自然」とはどういう事なのだろうか

俳優は作られた空間(目の前に実在する)で、作られた役(実際の自分ではない)を、あたかも実在しているものとして、今、演じなければならない。

人を演じる場合は特に台詞(セリフ)が重要で、今ここで生きていて、初めて喋っているように、生々しく演じなくてはならない。この時多くの俳優が誤解するのは、全てを自分が抱え込んで処理しようとすることだ。台詞の一字一句、その内容、その精神から身体状態、相手役の様々な事etc。それらを覚えこみ、今初めての生としてやりあげようとする。これはあまりに重い仕事だ。もしできたとしても、必要以上に緊張の高いものだ。

観客も、その時そこで初めての経験で、いささか不自然さを“そういうもの”として受け取る。これはあまり幸せな関係ではないと思われる。では、どうしたら良いのかを考えていこう。
(次回へ続く)

磯貝靖洋

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【コラム】「声とことばの磯貝メソッド」のこと

私達人間は、五感(視、聴、嗅、味、触覚)がセットされて生まれてきます。幼児期から育成期にかけ、身体と共に五感の形態も機能も育ちます。この頃、一番大きく育つのが脳です。この脳と体の育ちと寄り添うようにして育つのが、“ことば”です。中でも立って歩くようになると、脳は活発に活動し、ことばも覚え、喋りも発達します。

人間のことばは意味を持った音(声)です。まず声のことばで育ちます。英語では“Voice”と言い、声とことばの意味を持ちます。日本語では、一般的には“ことばは音である”というより、意味や文字や使い方等が頭に浮かびます。もちろん、声、文字、意味を縦横に使いこなし、素晴らしい人生や豊かな文化を築いています。

ことばは他の人達と生きていくのになくてはならぬ道具です。ことばは育成されて育つといいましたが、そもそも生まれる以前から、遺伝子の中に蓄積され、繋がっているのです。その基本の上に、日々の生活で記憶され、物事が脳に蓄積されていきます。そのため、体験したことのないことも、想像し話せるのです。

私達が何か話そうとする時、目の前の今に反応する脳と、古い蓄積された脳を引き出し、重ね合わせ、瞬時に最適な言葉を見つけ、話していきます。文字やデータ化された言葉は古い脳、声のことばは今の脳です。止まることなく次につながっていきます。声は今なのです。そして、次の今なのです。

声のことばを学ぶということは、素敵な今をキャッチすること、次の今を作り出そうとすることです。磯貝メソッドは今を生きることば(声)のメソッドです。声が変わると、ことばの意味も、発する人の心も変わるのです。


磯貝靖洋

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