俳優は作られた空間(目の前に実在する)で、作られた役(実際の自分ではない)を、あたかも実在しているものとして、今、演じなければならない。
人を演じる場合は特に台詞(セリフ)が重要で、今ここで生きていて、初めて喋っているように、生々しく演じなくてはならない。この時多くの俳優が誤解するのは、全てを自分が抱え込んで処理しようとすることだ。台詞の一字一句、その内容、その精神から身体状態、相手役の様々な事etc。それらを覚えこみ、今初めての生としてやりあげようとする。これはあまりに重い仕事だ。もしできたとしても、必要以上に緊張の高いものだ。
観客も、その時そこで初めての経験で、いささか不自然さを“そういうもの”として受け取る。これはあまり幸せな関係ではないと思われる。では、どうしたら良いのかを考えていこう。
(次回へ続く)
磯貝靖洋